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ACADEMIA

外国人労働者と日本の企業(後編)

みなさんお元気ですか?

以前にもお話をしたかもしれませんが、うちの大学ではセメスター制(1年に春秋と2学期ある)の中に、クォーター制(それをさらに2分割にする)があり、今週はこのセメスターの第1クォーター最終週でした。

さて、今回は前回に続く「外国人労働者と日本の企業」の後編

前回は日本企業と日本で働く外国人労働者が抱える問題をお話ししました。

そして「外国人労働者を活かせない職場」は企業だけに問題があるのではなく、外国人労働者にも問題があるという話をしました。

今回はその「解決案」を日本企業・外国人労働者の視点、両方から提案したいと思います。

これらの提案は、あくまでもたくさんある内のいくつかでしかないですし、全ての日本企業・外国人労働者に当てはまるとも限りません。

参考程度に読んでいただければと思います。

それではいきましょう!

外国人労働者を受け入れる企業へのアドバイス

言語面でのサポートを行う

多くの研究で、「外国人労働者は、言葉の壁によってストレス・困難を感じることが多い」ということがわかっています。

(職種によりますが)我々は仕事において、一般的に70%の時間をコミュニケーションに費やします。

普段からの会話、上司への報告、部下への指令、お客さんとのやりとり・・・。

これらをメール、電話、普段の会話など、色々な方法を使って行なっています。

また、「うまくいく組織」と「うまくいかない組織」の違いは、職場内でのコミュニケーションがどれだけスムーズに行われているか否かで決まるといわれています。

神経細胞が密に連絡を取り合って、我々の体が動くのと同じように、個々の従業員のコミュニケーションは組織がうまく機能する上で必要不可欠なものです。

そして、「言語」はコミュニケーションのための基本的なツールです。

時に、外国人労働者は「日本語運営能力」が乏しいために、苦悩することがあります。

(英語力が乏しい日本人が、英語圏の国に行ってうまく仕事ができないのと一緒です)

なので、雇用主は外国人労働者が職場において「言葉の壁を減らす機会」を提供できるよう、努力する必要があります

まず、語学クラスや翻訳サービスを含む、包括的な言語サポートプログラムを提供することが第一歩でしょう。

楽天のように社内公用語を英語にするという方法もあります。

しかし、僕が安易に「なんでも英語でやりとりすればいい」と言わないのは、「外国人=英語」を使えるケースは、誰にでも当てはまることはないからです。

現に、うちの大学では第二言語が英語ではなく、日本語という留学生をよく目にします。

技能実習生にもこういった方々は多いかもしれません。

とはいえ、彼らの日本語はネイティブレベルではありません。

よって、外国人労働者と日本人労働者がコミュニケーションをうまく取れるようにするためには、まずは外国人労働者に「日本語を覚えてもらうサポート」が必要なのではないかと思います。

外国人労働者が日本語を覚えたら、組織内のコミュニケーションが円滑になるだけではなく、お客さんとのやりとりや、彼らの普段の生活にも役立ち、彼らが「日本」というまだまだ英語を使わない(使えない)国で、自信を持って生活ができるようになるのです。

実際のニーズに合わせたリソース

企業は(もし存在するのであれば)現在ある「外国人労働者を受け入れるための内部リソース」が、彼らのニーズに本当にマッチしているかどうかを常に考える必要があります

「サービス・プロフィット・チェーン」という概念では、利益を生む組織になるためには、まず従業員を満足させなければならないと提案しています。

そして、従業員を満足させるためには、組織は適切な「内部資源(内部リソース)」を持たなければならないと言われています。

もし、企業が現在提供しているものが、雇っている外国人労働者のニーズにマッチしていなければ、そのプラクティスは非効率的であるばかりか、ただコスト高になるだけです。

つまり、「役に立たないことにお金と労力をかけてしまっている」ということになります。

外国人労働者をうまく受け入れるためのリソースに「たった一つの答え」は存在しません

受け入れる外国人労働者にとっても変わるし、組織によっても異なるのです。

したがって、外国人労働者を効果的に受け入れ、彼らの職務満足度・職場満足度を促進するためには、まず彼らが何を求めているのかを理解しなければいけません

その上で、できること・できないことがあるので、どこまでならできるか、どうしたらそれを実現可能にできるかを考えなければいけません。

また、時と共に彼らのニーズは変わります。

定期的に外国人労働者と話し合いをし、彼らのニーズに耳を傾け、現在のリソースやプラクティスを見直す必要があるのです。

管理職のEmotional Intelligence向上トレーニング

管理職のEmotional Intelligence(感情的知性)を鍛えることも重要です。

Emotional Intelligence (EI) とは、自分自身の感情を管理し、周囲の人々の感情を理解する能力のことです。

IQが高い人はいても、これが低い管理職が非常に多いように思えます。

例えば、高いレベルの顧客サービスが求められる「接客業」の場合、外国人労働者が言葉の問題だったり、日本的慣習を知らないがために、顧客の前でトラブルを起こしたりすることがあります。

その際、「お客様は神様だ」という日本的慣習の上で、マネージャーが怒鳴ってしまうことがあります。

「そんなことあるの?」と思うかもしれません。

しかし僕が行なっている研究でも、外国人労働者が客とマネージャーの両方から怒られ、孤立してしまうケースをよく目にします。

このような場合、怒られた外国人労働者が上司に求めていることってなんでしょう?

客とマネージャーからのダブルパンチですか?

この時、外国人労働者が求めているのは、「罵声」ではなく、「感情的サポート」です。

「怒っているのに、感情的サポートなんてできるか!?」と思う人もいるでしょう。

これを行うために、必要になってくるのが先ほど述べたEmotional Intelligence(自分の感情を管理し、周囲の人々の感情を理解し行動に移す)なのです。

そのトレーニングをしっかりとしている企業はどれだけあるでしょうか?

従業員のウェルビーイングを促進することは、外国人労働者だけではなく、日本人労働者にとっても不可欠です。

しかし、外国人従業員は、日本人労働者よりも社会的に弱い立場にあるため、もう一歩踏み込んだサポートが必要なのです。

とはいえ、多くの企業が日々の業務に忙殺され、これらのことを検討・実施する時間があまりないのが現状かもしれません。

しかし、成功している企業の方々に話を聞くと、外国人労働者の恩恵を受けるために、これら「基本的なこと」を実際に行なっていると言います。

そして、彼らが口を揃えて仰っているのは・・・

「できる・できない」ではなく、「やるか・やらない」か。

「本当に先見の目を持っているのであれば、そこに投資する。」でした。

外国人労働者へのアドバイス

一方で、外国人労働者ができることとは何か。

言語能力を向上させる

日本で働く場合、「日本語を話せるか」どうかで、同僚、上司、顧客などと効果的にコミュニケーションをとることができるかどうかが大きく変わってきます。

残念ながら、日本はまだまだ英語を使える社会にはなっていません。

企業は上に述べたような「日本語能力を向上させてくれる機会」を、提供してくれるかもしれません。

でも、そのような機会を最大限に活用し、日本語能力を向上させ、プロフェッショナルな水準で日本語を活用できるようになるためには外国人労働者本人の努力が不可欠です。

有名なことわざで「馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない」というものがあります。

いかに良い機会を提供していても、実際に行動に移すかどうかは本人次第という意味です。

厳しいことを言っているかもしれません。

でも、僕自身、海外で全く逆の立場にいました。

今ほど、テクノロジーも進んでおらず、AIも言語アプリもありませんでした。

図書館へ通いながら、死に物狂いで英語とロシア語を勉強しました。

言語力が必要だったからです。

少し前までは、外国人が日本語を上手に話すのを見ることは稀でした。

でも、最近はよく見かけるようになりました。

ということは、努力さえすれば、誰もが日本語力を向上できる時代になったのです。

テクノロジーの発達でさまざまなアプリも出てきています。

コミュニケーションにおいて必要不可欠な「言語力」高めていきましょう。

日本文化の理解

「旅行で文化に触れることと」と「住んで文化を理解すること」は全く違います。

いかにオーストラリアに何度も旅行に行っている人でも、オーストラリアに長期間住んでいる人と比べると、その土地の文化や慣習の理解度は全く違います。

そして海外に住んでいても、文化を理解するチャンスを無駄にしている人も多くいます。

どういう時にそういったことが起きるのか?

一つの例として、自分の国から来た人たちや、似た文化から来た人たちと常に一緒にいること。

自分の国の言葉を話す、あるいは同じような文化的背景を持つ友人がいるのは心地よいことですし、海外という「アウェイ」において、「安全」と感じることができます。

しかし、そうしてしまうことは、言語を学んだり、現地の文化を理解したりする機会を制限してしまうことでもあります。

これは、僕が「外国人」としてカナダやオーストラリアにいたとき、よく目にした光景でした。

英語圏に英語を学びに来た日本人が、語学学校を一歩出ると、日本人だけとつるみ、日本語ばかり話し、日本食レストランで働き、日本人と一緒に旅行し、英語力も現地文化の理解も向上しないまま国に帰る。

(そして「外国で働きたいけど言葉が難しい」と言う)

これをしていたら言語どころかその国の文化の理解もできません。

これは、日本に来ている外国人の方にとっても同じです。

日本語を習得し、文化を理解する必要があるのなら、もっと自分のコンフォートゾーンから抜け出し、日本人と交流してみることです。

最初は不安を感じるかもしれません。

でも、誰もが「環境に慣れる」という能力を持っています

今楽をして、あとで苦労するのか。

今苦労して、あとで楽をするのか。

少なくとも僕は、英語力を上達させ、現地の文化を理解するため、後者を取りました。

オープンマインドと適応力を持つこと

日本には自国にない「独特の文化」や「職場習慣」があります。

とにかく海外に比べると「特殊」なことが多いです。

しかし、日本で働く以上、この違いを乗り越えるのが必要になります

そこで不可欠なのが、「オープンマインド」「適応力」です。

「新しいことに挑戦するのが苦手な性格」の人もいます。

でも、自分が成長していくために、新しい状況には「前向きな姿勢」と「学ぶ意欲」を持って臨むことが大事です。

全ては学び。全ては成長です。

海外に住むときに、海外のことを全て知らないのは当たり前のことです。

そして、日本人は良くも悪くも、外国人が日本の常識・慣習を知らないことには寛容です。

なので、色々なことに慣れるまでは、わからないことがあれば遠慮なく質問したり、説明を求めたりしたほうがいいでしょう。

最後に

前回と今回は、僕が行っている研究の中から「外国人労働者と日本企業」というテーマでお伝えしました。

グローバル化によって、たくさんの人が自国から出て、海外で働くようになりました。

僕自身も、その一人でした。

そして、日本で働いている外国人労働者もそういう人たちです。

企業は、高齢化と少子化により、労働人口が急激に減ってきています。

企業が生き残っていくためには、外国人労働者を雇用し、うまく「国内組」と混ぜハイブリッド人材を作り上げていくことが急務になります。

最近よく色々なメディアでも使われている「ダイバーシティ」や「インクルージョン」は、企業にとって「目指すべきゴール」ではありません

それは、あくまでも「成功するためのプロセス」です。

そしていつか「日本人だから」とか「外国人だから」とかという言い方がこの国からなくなるといいなと思っています。

全ては、「外国人労働者・日本人労働者が心身ともに働きやすい環境を作る」から始まること。

それをいつ始めるか・・・。

今日からです!

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