先日大学の広報の仕事で、ある撮影がありました。
今日は、その撮影でお話をした内容から一部抜粋し、少し真面目な話をしたいと思います。
このミライヘのタネでは、僕の研究分野の話をすることはあまりありませんでした。
でも、今後は自分の研究に関することも、わかりやすく皆さんにお話しすることも大事だと思い、今回と次回は自分の研究のテーマに関わることを少しだけみなさんに紹介できたらと思います。
はじめに
僕は「組織とヒト」に興味があり、観光・ホスピタリティ業界を中心に、研究を行っています。
最近、様々なAIの登場が話題となっており、「この職業はなくなる」とか「これはAIにとって変わられる」という議論がテレビ、SNS、さまざまなところで行われています。
しかし、人が存在する以上、企業をはじめとする「組織」というものは、常に存在します。
そして、「組織」が存在する以上、その構成員(従業員)を育成・管理していく上で、直面する課題は尽きることはありません。
よって、多くのAIが出てきたとしても、「組織とヒト」は、今後どの産業においても重要なテーマになり続けるものです。
さらに今後の日本では、多種多様な背景を持つ「ヒト」を採用していくようになり、そうした「ヒト」が集まる「組織」のマネジメントに変化が求められるようになります。
今回は僕の研究テーマである「多種多様な背景を持つ従業員が、心身ともに健康に働き、かつ企業パフォーマンスを上げることができる職場環境の実現」をベースに、僕の考えをお話しできたらと思います。
日本の労働事情
日本はこれまでずっと「高齢化」が騒がれ続けて来ました。
都市圏にいると、そこまで感じることはないかもしれません。
でも、一歩地方へ足を踏み入れると、高齢化・過疎化を肌で体験できるでしょう。
昨今、高齢化のスピードは特に顕著で、今後10年でさらなる加速をしていきます。
そして、向こう10年を待たずに多くの人口が日本から消滅してしまうというのはもうすでに変えることのできない未来です。
年々下がる出生率も拍車をかけ、「労働力不足」がどの業界でも深刻化し始めています。
また、今我々が体験している「コロナ明けのオーバーツーリズム」により、需要と供給のバランスが完全に失われています。
話を聞くところによると、別府のホテルや旅館の多くが人員不足のために、7割しか部屋が埋まっていないのにも関わらず、「満員」としているとか。
一方で、グローバル化された社会において、多くの企業がその「競争力」を高めるため、多言語を扱う能力、異なる文化価値観を理解できる人材をこれまで以上に必要とし始めています。
この状況の中、今後の日本経済、そして日本の労働力に大きな影響力を与えるとされるのが「外国人労働者」です。
今現在、ホスピタリティ業界における外国人労働者といえば、まず思い浮かぶのが「技能実習生」かもしれません。
先日、箱根に出張に行った時も、彼らを目にすることがありました。
現在彼らは「技能を習得し、母国にその技能を持ってかえる」ために一時的に働いているかもしれません。
しかし、労働人口が急速に減っていく日本の観光・ホスピタリティ業界にとって、今後必要になってくるのが彼らのような「外国人労働者」であるのは間違いありません。
彼らが持つマンパワーだけではなく、その語学力・異なる文化背景などが企業に他市場とのつながりや、新しいアイデア、イノベーションをもたらす時はもうそこまで来ています。
結果、向こう10年間で日本人労働者だけではなく、有能な外国人労働者を見つけること、採用すること、そして育てることが、その企業にとって成功と繁栄を左右する重要な要素になってくるのは間違いないでしょう。
まだまだ数は少ないですが、いくつかの企業は、外国人労働者を積極的に雇用し、彼らを有効活用することにより、その恩恵を受け始めています。
一方、日本の多くの企業が外国人労働者を雇用するアドバンテージを活かせずに悩んでいる。
・・・なぜか。
外国人雇用がうまくいかない企業の特徴
理由は様々ですが、そのひとつ「職場の効果的なコミュニケーション・システムの欠如から生まれる、雇用者と外国人労働者間の理解不足」です。
「外国人雇用がうまくいっていない」という企業の方々にお話を聞いた際に、次のような共通点を見つけました。
- 何かしらの実践はしているが:「我々は組織としてできる限りのことをしている(と考えている)」例として、祈祷室の設置、母国の休日を考えたシフト作り、その国の食をみんなで食べる異文化交流イベントなど。
- 外国人労働者への低い期待:「日本語がおぼつかない外国人従業員に接客させるのはリスクが高い。そのため、彼らにお願いできるのは、お客様とのコミュニケーションを必要としない業務がほとんど。彼らが与えられた仕事をこなす限り、私たちはそれ以上を期待しない。」
- 理解へ姿勢が低い:「現在、外国人社員が数名いる。しかし、彼らの文化・習慣を別に理解するつもりはない。彼らが日本にいるのであれば、日本の文化・習慣を学ぶべきである。」
結果、このようなマインドセットを持った多くの企業が、外国人労働者を効果的に指導・導入する方法を見つけるのに苦労しています。
外国人労働者が直面する4つの問題
一方で、外国人労働者が共通して抱える課題もあります。
さまざまな課題がありますが、その課題は主に以下4つになります。
- 言葉の壁:外国人労働者が増えているとはいえ、日本で働く場合、特に接客業では日本語が必要であるという現状
- 文化の壁:「日本の常識は世界の非常識」と言われるように、労働文化・倫理観の違い。特に「サービスとは何か」に対する認識の違い。出張中もホテルやコンビニで働く外国人労働者が、僕の顔を見ず、挨拶もしないのをよく見かけた。
- 日本人社員との関係:コミュニケーション不足や孤立。上司や同僚からの暴言。
- 客からの暴言(上司や同僚からの精神的サポートの欠如):言葉の壁や文化の壁などに起因して、お客様に求められるサービスが提供できないために、宿泊客に不満や暴言などを吐かれる。そして、その際に上司や同僚からの精神的サポートがない。
他にも色々要因はありますが、企業側が「やってるつもり」で終わっているケースや、「理解してくれない」と嘆き続ける外国人労働者も多いのが現状です。
結果、企業と外国人労働者の双方にとって「不健康な労働環境」を作り上げている状況を多く目にします。
そうなると、多くの外国人労働者がフラストレーションを抱え、仕事へのエンゲージメントをやめてしまう。
最終的には退職する。
結果、企業はパフォーマンスが上がらず、伸び悩む。
また人材不足になる。
企業が困る。
という「負のサイクル」がずっと回ることになります。
外国人雇用を成功させている企業・失敗している企業の違い
それでは、外国人労働者の受け入れに成功している企業と、その恩恵にあずかれない企業の違いは何か。
相互理解をするための「効果的なコミュニケーション・システム」が職場に取り入れられているかどうかだと思っています。
弱い立場にいる外国人労働者が守られるケースをよく目にしますが、「不健康な労働環境」を作り出している責任は、企業だけでなく、外国人労働者にもあります。
そして、この問題を解決するには、両者が相互理解する努力が不可欠です。
その相互理解をするために、両者が共同して効果的なコミュニケーション・システムを作り上げていくということが必要になります。
一見当たり前のことのようにも思える。
しかし、「効果的なコミュニケーション・システム」を作ることは一朝一夕ではできることではありません。
次回ではこのシステムを作っていく上で、いくつかのヒントを紹介していきたいと思っています。
まとめ
ということで、今回はいつもと趣向を変えて、僕の研究テーマである「組織とヒト」、特に「外国人労働者と日本企業」に関して少しだけお話ししました。
今現在、みなさんの職場にも外国人労働者がすでにいるのではないでしょうか?
そして、今日本人だけの職場も、多かれ少なかれ外国人労働者が入ってくると思います。
そうなった時に、企業はどのように外国人労働者が持つポテンシャルを引き出すことができるのか。
そして、現在働いている日本人労働者とどううまく「混ぜて」いくのか。
答えは1つではありません。
ぜひみなさんの現場で抱えている問題などがあれば、コンタクトフォームから送ってください。
その返事を記事としてお届けしたり、YouTube Channelにてお話ししたりできたらいいなと思っています。
それでは、次の記事でお会いしましょう!
ほんでまず!